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本が大人の世界への不安を払拭してくれた(五十嵐明彦さん/公認会計士・税理士)インタビュー

出会いが人を形作るなら、本との邂逅もまた人生の大きな節目となる…。読書遍歴を辿りながら、ここでしか聞けない話も飛び出す(かもしれない)インタビューシリーズ「ほんとのはなし」。今回は経済学者、高橋洋一さんの登場です。

(インタビュー・文 沖中幸太郎)

こんな話をしています……

  • 「大人の世界」に不安を持っていたが、読書を通して子供の世界と大差ない価値観や決まり事に妙な安心感を覚えた
  • ビジネス書や自己啓発の本を中心に読んで、社会に対する想いをかき立てていた
  • 目の前のことを一つ一つ解決し、積み重ねてきた

五十嵐明彦(いがらし・あきひこ)氏プロフィール


明治大学商学部3年在学時に公認会計士試験に合格。大学在学中から監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)に勤務し、国内企業の監査に携わる。2001年には、明治大学特別招聘教授に。現在は、税理士法人タックス・アイズの代表社員として相続税などの資産税業務や法人に対する税務業務を中心に幅広い仕事を行うほか、国内企業の監査業務に携わるとともに、明治大学経理研究所にて公認会計士試験講座の講師を務める。 著書に『子どもに迷惑かけたくなければ相続の準備は自分でしなさい』『「相続税、私が払うの?!」とあわてる前に子どもがやるべき相続準備の本』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『相続破産 危ない相続税対策、損する遺産』(朝日新聞出版)など。

「信頼される、スピード感がある、親身になる」がモットーの税理士法人タックス・アイズ代表を務める公認会計士・税理士の五十嵐明彦さん。目の前にあった“縁”を紡いでこの世界に入りました。「当たり前を一所懸命に」「難しいものをわかりやすく」という五十嵐さんの本に込められた想い、ほんとのはなしをお届けします。

三つのモットーと二つの目で

――決算申告や経理支援、など税務のプロフェッショナルとして活動されています。

五十嵐明彦氏:「タックス・アイズ」という名前は、めまぐるしく変化する経済情勢に的確に反応できるように、あらゆる角度から目(eyes)を向けるとともに心(愛s)を込めて仕事をしていくことを宣する意味で名づけました。法人の決算申告や経理支援、個人の所得税や相続税の申告についてのご相談を受けています。

みなさまに信頼され、安心して仕事を依頼していただくこと、依頼にスピード感のある対応をすること、親身になってみなさまへさまざまな提案をしていくこと、この三つを信条に税務のサポートを取り組んでいます。

――五十嵐さんが公認会計士になろうと思われたのは。

五十嵐明彦氏:子どもの頃、活発な野球少年だった私は、夢もプロ野球選手。毎日野球をしているような子どもでした。そんな私が読書好きになったのは、高校生になってからでした。父が本好きで、読んでいた船井幸雄さんの本などを読み始めたんです。

時間や約束を守ることなど、当たり前で普通なことが、大人が読む「本」に書かれているのを読んで、少し衝撃を受けました。なんだかよくわからない「大人の世界」に不安を持っていたのですが、価値観や決まり事というのは、子どもの世界とそう大差ないのだと、妙な安心感を覚えました。「自分のできることをやればいい」そう思わせてくれました。

とはいえ、まだ「これがしたい!」という明確な目標があった訳ではありませんでした。高校3年生の進路面談時には、友人の「公認会計士の勉強をするために商学部へ行く」という意見に、特に考えもなく同調し、担任の先生に伝えました。ところが、先生はしっかりと私の意見に対して考えてくださり、知り合いであった公認会計士の石井和人先生を紹介してくれました。

初対面の高校生相手に、公認会計士の魅力を丁寧に私に話してくれました。仕事についての知識はまったくありませんでしたが、「よし、やってみよう」と一念発起しました。そのとき、ご馳走になったステーキが、気持ちによりいっそう拍車をかけてくれたのかもしれません(笑)。

そうして、大学入学の少し前から簿記の勉強を始めました。当時は一般教養を経た大学3年生にならなければ公認会計士の試験を受けることはできず、「それまで待とう」と3年合格プランを立てたのです。大学生になってからは、ビジネス書や自己啓発の本を中心に読んで、社会に対する想いをかき立てていましたね(笑)。

大学の付属高校から受験をせずに大学に入学した自分は、どこかで勝負したいという気持ちがあったのだと思います。サークル活動や飲み会などそれなりに普通の大学生活も送っていましたが、余力をぶつけたい、資格試験で勝負したいという気持ちはずっと消えませんでしたね。

――目標通り、3年時に公認会計士の試験に合格されます。

五十嵐明彦氏:公認会計士の就職活動は、10月の合格者発表後すぐに始まり、就職します。私も、その年の10月に監査法人トーマツに入社し、卒業する3月までは非常勤という形で働かせてもらいました。 社会人1〜2年目は、手取り足取り教えてもらいながら、色々な人の仕事を見ながら覚えていきました。

監査法人の魅力は、現場によりチームが違うこと。色々な会社や仕事を見ることもできましたし、その都度、一緒に仕事をする先輩や上司も異なり、良い経験になりました。 自分で何かをやりたいという気持ちもあり、社外でも学ぶ時間を確保するため、2年半務めたのち非常勤に戻り、専門学校で公認会計士受験の講師などをしていました。

ある日、私がこの世界に入るきっかけを与えてくれた石井先生から、タックス・アイズの前身となる今尾公認会計士事務所を紹介され、そこから今日に至ります。

ベストタッグで専門知識をわかりやすく

――数々の経験を本にされています。

五十嵐明彦氏:大学四年時に書いた『公認会計士2次試験「非常識」合格法―勉強しないだから受かる』という本が最初でした。石井先生から伺った方法で公認会計士試験に合格できましたが、周りでそういった勉強法は見受けられませんでした。

その方法を伝えるために、本にまとめました。 その後、取っ付きやすく面白い簿記の本を書きたいと思い、出版社をまわって簿記検定の本を書かせてもらいました。

その簿記検定の本づくりを通して、石塚理恵子さんという素晴らしい編集者と出会いました。簿記の本というのは、数字や、仕訳など細かい項目がたくさん出てきます。「知らない人が読んでも、わかるように!」と何度も言われ、修正を重ね意見を聞きながら書き上げました。

その後の私の本づくりは、そのほとんどが石塚さんとタッグを組んでやっています。 確かに、一見して専門用語が羅列してあるような本は、読んでいて面白いと思う一方で、なんだか疲れてしまう時もあります。ですから、最後までちゃんと読めるような、わかりやすくリズミカルな本を届けたいと思っています。

――『「相続税、私が払うの?!」とあわてる前に子どもがやるべき相続準備の本』も、読みやすいものでした。

五十嵐明彦氏:親に向けた相続の入門本で黄色い表紙の『子どもに迷惑かけたくなければ 相続の準備は自分でしなさい』と対になっている本で、親が元気なうちに子どもがしておくべき相続準備の重要性をやさしく説明しました。

「自分には関係ないかも」と思われている方も、相続税の法律も変わり、対象となる範囲が拡大され他人事ではなくなってきています。また、いざという時になって、慌ててしまったという話もたくさん聞かれます。相続対策は親子の協力が最も重要なので、是非親子で読んでいただきたいと思います。この本も、編集者は石塚さんでした。

――素敵なタッグで発信を続けられます。

五十嵐明彦氏:目の前のことを一つ一つ解決し、積み重ねてきたので、あまり「こうしなければ」というのはありませんが、今は、わかりやすい会計の本を書きたいと思っています。これからも、相続に限らず、世の中で「わかりにくい、けれども避けては通れない」問題に対して、専門家としての情報をわかりやすく届けていきたいと思います。