唯一無二の仕事を切り拓く12人の物語、発売中

『運び屋』の同じ釜の飯「プルドポークサンド」(映画の食卓)

映画『運び屋』とは

長年、園芸農家としてデイリリーの栽培に人生を捧げてきた主人公アール・ストーン。

家庭を顧りみず仕事一筋の人生を送ってきた結果、栽培農家として数々のトロフィーを獲得する栄誉に恵まれるも、近年のネット販売の波に飲まれ、ついには廃業し家さえも競売に掛けられる始末。

行くあてもなく、唯一心を開いてくれている孫娘のところに行くと、ちょうど結婚前の顔合わせパーティーの最中。ここでも鉢合わせた娘や元妻からは一緒にいることを拒否されてしまうほど、家族の関係は完全に冷え切っていた。

せめて孫娘の結婚式の費用を捻出したい。その様子を察してか、その場に居合わせた新郎の知人を名乗る男が、とある”仕事”をアールに紹介する。

それは、中身を知らされず、ただ「贈り物」を乗せて町から町へと「ドライブ」する仕事。一回限り。ちょっとした小遣い稼ぎのつもりで、気軽に引き受けた。

指定された通り「贈り物」を運ぶと、孫娘の費用を払ってもまだ余りある報酬が。予想外の大金を手にして、徐々に荷物の中身に気がつきながらも、自分と自分の周りの幸せのために、「これで最後」と言いつつも、次からまた次へと依頼を受けてしまう。

運び屋タタの誕生だった。

朝鮮戦争帰還兵という自負のようなものを持った生き方と男としての粋な姿で、不思議と周りを惹きつける性格の”タタ“ことアールは、カルテルのメンバーとも親しくなり、着実に実績を積み上げ、凄腕の運び屋となった。ついにはカルテルのボスにも気に入られ、本拠地メキシコまで招待されるほどに。

ところが、ボスが代わった途端、待遇は一変。

気ままなドライブは許されず奴隷然とした扱いで、勝手な行動は即死につながるよう警告される。

そして、新しいドライブの早々、妻危篤の知らせが。

一方、DEA麻薬取締局は凄腕の運び屋タタの情報を掴み始め、徐々にアールへと縄手が迫って来ていた。

「人の心は胃袋から」世界一美味しいプルドポークサンド

「麻薬カルテルの運び屋」と言っても、運転が好きで免許取得以来一回の違反もない、ついこの間まで園芸農家だったお爺さん。

とはいえ、ただの好好爺ではなく、朝鮮戦争帰還兵であり、男の矜恃のようなものを持つタフ爺でもある。

ブツを運ぶ道中でも寄り道し放題、ラジオから流れてくるお気に入りの音楽を口ずさみながらの気ままなドライブ。

耐えかねた見張り役に、胸に銃を突きつけられるも、「戦争帰りを舐めんな」と一蹴する。(ここらへんは、『グラン・トリノ』でも見られた老年クリント・イーストフッドの面目躍如)。

『グラン・トリノ』のモン料理

8回目の「ドライブ」。また、いつもの寄り道で立ち寄ったのが、アール曰く中西部イチ美味しい(のちに世界一美味しいと言い直す)プルドポークサンドのお店。

プルドポークとは、煮込んだ豚の塊肉を細かく刻んで、バーベキューソースで味付けしたアメリカ中西部のポピュラーな家庭料理。

店内は白人ばかり。客という客からジロジロと遠慮のない視線を浴び、居心地の良くないメキシコ系の見張り役ふたり組。

仕事上で多少のスペイン語も解し、彼らに偏見を持たないアールは、彼らの置かれた状況をジョークで返し、自ら運んできたポークサンドを食べるように勧める。

Julio : Everyone keeps looking at us.

(見張り役フリオ)みんな俺らをじっと見てくるぜ。

Earl : Yeah,well,that’s ’cause they see two beaners in a bowl full of crackers.

(運び屋アール):そうだな。まあ奴らは、クラッカー一杯のボールに、2つの豆粒を見てるからだろ。

豆は、彼らの主食から、メキシコ野郎という意味。

アールのジョークで緊張が解けたか、訝しみながらも一口頬張った見張り役の動きが一瞬固まる。

© 2018 Warner Bros. Japan LLC All rights reserved.

確かに、美味い。

そして、アールは言う。

Enjoy life,like I do.

もっと人生を楽しめ。俺のようにな。

フリオは茶化したが、幼少期からの不遇な境遇の中、選択肢もなくただ今の仕事に就かざるを得なかった彼の心に少なからず響いたものがあったに違いない。

「同じ窯の飯」となったプルドポークサンド。単なる見張り役と運び屋だった関係に、変化が生まれた瞬間だった。

映画に登場したこのお店は「Shane’s Rib Snack」という、アメリカ・ジョージア州を中心に9州にチェーン展開する実在のBBQレストラン。創業者シェーン・トンプソンの祖父から受け継いだBBQレシピを元に2002年に夫婦で開店。映画で登場した店は、創業の地でもあるアトランタ都市圏内の、2136 SR-155 McDonough, GA  30252 United Statesにある。

『運び屋』が観られる配信サービス

U-NEXT

AMAZON PRIME VIDEO