行政書士として企業の経営をサポートする一方、家系図作成業務にも力を入れている丸山学さん。家系図を作るという作業は“1000年をたどる”という気の長い作業ですが、その分大きな喜びもあります。「世の中に散らばっている、人々の先祖の記録や物語を、検索可能なデーターベースとして作り上げたい」という丸山さん。家系図作成に至るまでのエピソードを伺ってきました。
こんな話をしています……
・記録には“蓄積の強み”がある
・論理的な思考だけでは理解できないものを、自分の中に持っておけるのが小説の楽しみ
・本は、何かを調べる時の軸足
丸山学(まるやま・まなぶ)氏プロフィール
1967年、埼玉県生まれ。 民間企業の経理・総務課長職を経て、2001年8月行政書士事務所を開業。会社設立手続き、契約書作成代理、資金調達などの法務面だけでなく、マーケティングやビジネスモデルの構築など経営全般において、起業家を徹底的にサポートする。 また自らの家系を900年分たどるなど、家系図作成業務にも力を入れている。 著書に『最期まで自分らしく生きる 終活のすすめ』『10年間稼ぎ続ける行政書士の「新」成功ルール』(同文館出版)など。『自分でできる家系図』(二見書房)、『先祖を千年、遡る』(幻冬舎)、『「家系図」を作って先祖を1000年たどる技術』(同文館出版)など、家系図関係の著書も多数。
紙相撲の運営から始まった“記録グセ”
――(丸山さんの事務所にて)たくさんの資料がありますね。
丸山学氏: ここにあるのは、寛政年間に江戸幕府がまとめた『寛政重修諸家譜』です。各藩、各大名家が家臣に家系図を提出させたり、由緒書きのようなものを提出させたりして出来上がったのだそうです。何百年も前のことが分かるのは本当に不思議で面白いですよ。
こちらは人別帳というもので、村ごとに全世帯の名前と年齢が書いてあります。現在の戸籍のようなもので、毎年作成されていました。こちらの検地帳のようなものには、人の名前と村の中で持っている田畑を一つずつ書きだされています。
こういった資料は、どこにあるかもわからないもので、時には個人宅の蔵から出てくることもあります。家系図はこういう過去からの記録を探し求めてやっていく世界です。記録を探すためには、地域の人や色々な人の協力が必要となります。色々なところに、先祖探しのための手紙を書いたりもします。昔から記録を取るのが好きな、少し変わった子どもでしたが今の仕事に生きているなと、実感しています(笑)。
――どんな記録を取っていたんですか。
丸山学氏: 小学校の高学年のころは、“紙相撲の運営”をやっていました。紙相撲の力士を自分で作って、番付や取組表も作るのですが、ちゃんと十五日間の取組をやるわけです。それがすごく楽しかったのを覚えています。単純に相撲に興味を持ったということもありますが、記録が好きなのです。野球も好きですが「ここで打たれると、防御率が何点変わるかな」とか(笑)。 試合そのものよりも、“記録”に目がいってしまって……記録グセがついてしまったんですね。
相撲に関しては次第に、その歴史を調べたくなって、江戸時代の力士の番付や取組表が書かれている記録を読むようになりました。マニアックすぎて誰も一緒に遊んでくれませんでしたよ(笑)。そんな記録グセが今に繋がっています。
蓄積の強みを活かして
丸山学氏:長らく経理の仕事をしていましたが、「独立して自分でやりたい」という思いはずっと持っていたので、行政書士の資格を取得し開業しました。その際 “自分独自の何か”を作っていきたいと考えていました。他と違うものを生み出せていれば、ずっと走っていられると思ったからです。
Paypalの創業者ピーター・ティールの『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』という本を読みましたが、共感する部分が多かったですね。
ビジネスにおいては、他と同じことをやっていると価格競争になってしまって、存続できなくなってしまう。差別化された新しいものを、自分で生み出していかなければならない、という話です。 私の場合、それは「家系図の作成」でした。古い記録や資料を集めて記録する、自分の記録グセが生かされる仕事でした。また 記録には“蓄積の強み”があります。蓄積の強みが出るものでなければ、本当の意味での差別化は難しいと思います。
――開業時の丸山さんのご経験は『行政書士になって年収1000万円稼ぐ法』にまとめられていますね。
丸山学氏: もともと行政書士の業務について、メールマガジンで発信していたのですが、それを読んでくれた編集者から実務書執筆のご依頼をいただいたのが最初ですね。行政書士になりたてで、経験も少なかったので “開業奮闘記”という形でまとめました。好評を頂きその後、様々な出版社からお話をいただくようになりました。その後、読み手だけでなくこうして書き手にもなってみて、ますます記録媒体として素晴らしい本の魅力を感じています。
――こちらの本は。
丸山学氏: これは、谷崎潤一郎の『春琴抄』です。ある種、特異な世界が描かれています。不思議な世界が描かれているのですが、論理的な思考だけでは理解できないものを、自分の中に持っておけるのが小説の楽しみだと思っています。ビジネスの基本は、ロジカルシンキングとよく言われますが、その対極にあるものの一つが小説なのかなと。
「どのようにして、違いを生み出せるのか」という部分に関しては、本などから得るものが多いですね。僕にとって本は、何かを調べる時の軸足のような感じです。本を読んで、またそこから「次は、こういうことを調べたら、もっとわかるんじゃないか」という風に広がっていきます。
我ら“アーカイヴィスト”
――先祖巡りを通しての様々な成果が、本にまとめられています。
丸山学氏: 地方に行くと、江戸時代の武士の記録が色々なところに残っていますが、ほとんどが活字化されておらず、まとまってもいないので、それを辿っていくのはとても困難です。僕はこれを一つにまとめたいと思っています。
ご先祖様を辿るとき、農民であった場合は比較的流動せず、記録にも当たりやすいのですが、武士の場合は少し大変です。明治の廃藩置県で失業して、土地を移動した家が多いのです。だから戸籍をたどっても、上の代の名前だけとか、途中に不備があってよくわからなかったりします。
そこで、一つにまとまった記録があれば、名前だけでも辿ることが出来るようになります。江戸時代の武家の氏名や、色々な地域のその時代の記録なども含めた、全体的なデーターベースを作って、簡単に検索できるようにと考えています。
全国の資料を集めたり、崩し字を読んでデーターベースを作ったりということは、まだ誰もされていないので、新たな挑戦です。自分もそこに、役に立てるものを残したいと望んでいます。
――丸山さんは “アーカイバー(アーカイビスト)”なんですね。
丸山学氏: いいですね!“ユーチューバー”みたいで(笑)。自分はいったい何者なのか、ずっと考えていましたがすっきりしましたよ。“アーカイバー”いいですね。今、新たな取り組みとして、ご先祖探しで得た個後の成果をその家のために本に残し、出版するということをやっています。
家系図作成のお手伝いをする中で、依頼人からの要望で生まれたものです。去年から始めて、すでに二冊出来上がっています。国会図書館に納品するので、永久に記録されます。
ご先祖探しは、辿り着くためのテクニカルな部分と、想いを馳せる感情的な部分があります。 デジタルの強みである検索をいかしつつ、想いを馳せることが出来るような、ご先祖探しや家系図についての本を、新たに作っていきたいですね。