出会いが人を形作るなら、本との邂逅もまた人生の大きな節目となる…。読書遍歴を辿りながら、ここでしか聞けない話も飛び出す(かもしれない)インタビューシリーズ「ほんとのはなし」。今回は天台宗名誉住職であり小説家の瀬戸内寂聴さんの登場です。
(インタビュー・文 沖中幸太郎)
瀬戸内寂聴(せとうち・じゃくちょう)プロフィール ※インタビュー当時
徳島県立高等女学校(現:徳島県立城東高等学校)、東京女子大学国語専攻部卒業。代表作に『夏の終り』や『花に問え』『場所』など。古典に造詣が深く、特に『源氏物語』に関する著書は多数。98年『源氏物語』の現代語全訳完成。また、執筆以外にも、僧侶として『写経の会』や『法話の会』を開き、多くの人々の心の拠り所をつくっている。東日本大震災後に大病を患うも、2016年、94歳にして初の掌小説『求愛』を発表するなど、精力的に活動している。1922年5月15日生まれ。僧位は僧正。97年文化功労者、06年文化勲章。
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万物は流転する
92歳になってからも毎日は忙しい。仕事の依頼は山のようにあり、暇さえあれば書いている。ただし「手書き」で。最近は手書きが読めない編集者が増え、自分で読んでいる。東日本大震災の頃、圧迫骨折で寝込んでいた時には、横になってでも書いていた。
「機械オンチ」を自称するが、自身の著作が電子化されたこともあり、電子書籍にはじめて触れた。ワープロが登場したとき、仲の良かった大庭みな子さん、河野多惠子さんの三人で「機械なんかで書く小説なんか小説じゃないよね、やっぱり小説は手で書かなきゃ」と笑いながら語っていた「手書き派」だったが、その便利さと未来を実感した。
「すべては変わっていくのよ、万物流転ね」。
忙しい毎日でも、読書は欠かせない。五つ上だった姉の影響で、本を読むようになった。姉が買った雑誌や本をすべて読んでいた。文学全集は、姉の先生の家に行って読んでいた。意味も分からず読んでいたトルストイのカチューシャの話などは、今でも細かに心に残っている。
「やっぱり教養がなきゃね。教養というのは書物を読むこと。そこから宗教も出てくるし哲学も出てくる。恋愛なんかする場合もやっぱり本を読んでおかなきゃね、口説けないじゃない」。
(2021年11月9日逝去)