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「かけつけ三杯」の懐かしい夜(巣鴨、シリンゴル)

店主の田尻さんは、80年代後半の留学時代から商社時代まで、何度も現地に赴いてきた中国通。巣鴨の地にモンゴル料理屋「シリンゴル」を開いたのが95年。以降、年に数回のペースで、お店のお客さんとツアーを組んで内モンゴルを中心に回っている。

「そういえば行ってないね」

と最近訪ねた場所が、ハルピン。

こちらは先日ハルピンで羊肉三昧を過ごしたばかり。ということで、ハルピン話に花を咲かせつつ、ウォッカで歓迎を受けることに。

チンギス・ハーンが刻まれた皮のケースのモンゴリアンウォッカを頂く。

「かけつけ三杯」はモンゴルから来た言葉だと主張する田尻さん。「酒量はすなわち男気を表す」などとのせられ、すぐに三杯を飲み干してしまう。

もちろん乾杯なので、田尻さんも飲む。三杯では足らなかったか、何度も追加して平気でグビグビ。チンギスハンレベル。おそるべし。

この日は、

  • チャンサンマハ(骨付き羊肉の塩茹で)
  • 棒棒羊(バンバンジーの羊版)
  • シシカバブ(羊の串焼き)
  • シュルテホール(羊肉うどんスープ)
  • 羊肉のシャービン(おやき)

を注文。

週に数頭仕入れて、店で直接さばくシリンゴルの羊肉は、味も質も一級品。また、モンゴル料理は基本香辛料少なめの味付けということで、香り、食感。五感をフル活用して味わえる。

熱々に茹であがったチャンサンマハを、ナイフで豪快に切り分け、付属のたれをかけてガツガツと喰らいつけば、もう気持ちは草原の騎馬民族。

芳醇な羊肉の脂身と薬味だれが組む見事なタッグ。これは、羊×クミンに勝るとも劣らず。

チャンサンマハは一度に食べきれないくらいの量なので、途中で冷めたら、温めなおしてくれる。羊の脂は融点が44-55℃と高く、他の動物性油と比べて固まりやすいためである。やはり羊は熱いうちが美味しい

北京産よりも繊細な味のする、台湾産のハルアルヒ(二鍋頭酒)に、ビール、アミールハイ、井筒ワイン(白)にチンギスハンウォッカ。どれもが料理に合う。

程よくお酒がまわったところで、このお店のシェフであり、かつて内蒙古歌舞団に所属していた馬頭琴の演奏家チンゲルトさんによる馬頭琴の演奏が始まる。ちなみに店名のシリンゴルとは、チンゲルトさんの故郷の地名。

男女の恋を謳った、オリジナル曲「ウブスノール」から、おなじみの「スーホの白い馬」まで、しっとりとしたものから軽快な調べまで四曲を披露してもらう。

馬頭琴……学生時代に働いていたシルクロード料理店が思い出される。

学者として来日していたモンゴル人留学生の同僚。彼は主にキッチン担当だったけれど、お店のリクエストで何度か馬頭琴の演奏もしてもらっていた。

音色を聴いて、一緒に皿洗いをしながら、調理場で将来の夢を語った記憶が呼び起こされた。

連絡先も交換しないままにお店は閉店してしまい、それきり。

馬頭琴のおかげで、はじめてのお店なのに、やけに懐かしさを覚えたシリンゴル、駆けつけ三杯の夜。

かつての同僚は、今ごろ国で有名な学者になっているのだろうか。