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三好康之さん(株式会社エムズネット代表取締役)「マルチタスクで生きる」インタビュー

世の中には試験勉強よりも難しいことがいっぱいある 

三好康之氏: 学生のころは、ちゃらんぽらんでしたね。今楽しければそれでいいっていう、よくある子供の考えです。ただペーパーテストとか勉強だけはできたんですよ。記憶力とか、要領が良かったんだと思います。「ああ、こういう世界は楽だな」と思っていました。 

ただ、その一方で、そんなものに魅力は感じなかったし、何の価値も感じませんでした。世の中には勉強なんかよりももっと難しいものがいっぱいあるって思ってましたから。だからなんでしょうね、僕が今も遊んでいる友達は、中卒であったり、高校を辞めちゃったりという人が多いんです。勉強するという人生を選ばなかった人たちです。ほんと、彼らの方がずっと人間的に魅力があるんですよね。僕はそういう人たちのほうが好きなんです、勉強しかできない人なんかよりも。

授業さぼって遊んでいるか、授業中に遊んでいるか、寝ていましたね。点数を取るだけだったら、試験前に、先生がどういうところを教えたらいいかということが書いてある「教科書ガイド」を読めば、試験に出すところがわかるので、それを数回読んだら点数は取れていました。その方が、自分の時間が有効に使えるんです。でも、それが今テキストを書く時のノウハウにもなっているんですから人生わからないもんですね。 

だから、ペーパーテストなんかに時間をかけて、勉強のために何かを犠牲にするというのを止められるようなものを作りたいと思っているんです。もっと本を薄くしたいです。勉強にかける時間を、極限まで削減したいんです。あとは笑いながら勉強できるツールを出したいんですよ。一度吉本興業に、会計士とか弁護士の勉強を笑いながらできるツールって作れないかなって話を持っていったのですが、向こうの取締役に、「できるかっ、それは無理やろ」って突っ込まれました(笑)。

笑いながらというと語弊があるんですけど、楽に、やりがいを持ちながらできるというか。そうですね、例えば、自分の好きなアイドルが「試験がんばってね」って応援してくれるようなことでもいいんです。一言いってくれたら、やる気も出るんですよ。そういうのを考えていきたいんですよね。

試験の教材に何が求められているかというと、勉強のしやすさ、どうすれば受かるかというところだけなんです。受からなかったら何を書いていようが意味がないんですね。普通、本を出す際は、言葉とか表現に主眼が置かれていると思うんですが、受験参考書っていうのは、そこはちょっと違うんですね。具体的には、とにもかくにも、試験の分析に力を入れていますね。というのも、受験参考書のページ数は少ない方がいいんですよ。勉強時間は少ない方がいいのでね。しかし、その一方で網羅性も必要になる。だから、掲載する項目の取捨選択をするための分析が必要なんですね。 

――受かる為の分析が、教科書には求められている。 

三好康之氏: たとえばそうですね、情報処理技術者試験を作っているIPAという独立行政法人の財務諸表なんかにも目を通していますよ。そして、「今年は予算的に新規問題が作れないな」とかまで考えたりしています。要するに、効率よく勉強してほしいという願いを1冊に詰め込んでいるんです。テキストはだいたい受験する人の7割ぐらいが使ってくれているようですね。評判がクチコミで広がっています。きちんと勉強した人には、内容が明らかに違うとわかってもらえるようです。嬉しいですね。

それから、表現もすごくこだわっています。小説や読み物と違って、うまく言おうとかきれいな表現をしようとかは考えていません。必要ありませんから。それよりも、できるだけ効率よく記憶に残すための表現を考えています。ですから文字のフォントの大きさとかレイアウトには、すごくうるさいんです。編集者とはいつもそれでもめるんですが。

読者の利益を守るのが著者の仕事の一つだと思っていますから編集者とは、かなり激しくやりあいます。読者代表として。 

出版不況っていうのもあって、どうしても出版社は、出版社の利益を大きくすることだけを考えがちですからね。言われるままにしておいたら、読者にとってのメリットが損なわれるんで。そのあたりは、漫画や小説と実務本の違いだと思いますよ。

例えば、「シリーズものの統一」なんかがそうかな。編集者としてはレイアウトなんかをシリーズで統一したいっていう思いがある。でも、僕は、試験対策では国内No.1っていう自負がありますからね。「どうして他の著者に合わせないといけなんだ!」って。

だから、編集者の方には、内容は当然のこと、構成やレイアウトに至るまで全てこちらの指示通りにするように伝えています。細かい部分では、表現の修正も独断ではやらないようにいっていますね。編集者の方には、中身ではなく、広告宣伝やキャッチなど「売るための努力」を期待しています。 

——読み手としてはいかがでしょう。

三好康之氏: 仕事が休みになったら、どんな資料を読もうかと考えています。もともと僕自身がIT関係の仕事をしていて、コンピューター関係で出る本出る本を買っていかなきゃいけないので、月に本棚1個分、200冊ぐらい増えていってた頃もあります。出版社からもいろいろな新作の本が送られて来るので、買わなくてもどんどん増えてくる。だからPDFで電子化する「自炊」を、かなり昔からやっていました。自炊を始めた当時は裁断機もなかったので、カッターでバラしてA3までスキャンできるスキャナーを使って、11冊ぐらいコツコツやっていましたね。 

電子化された書籍は前はパソコンの中に入れて持ち歩いていましたが、今はiPadiPhoneに入れています。ただ、研修やコンサルティングをしていて、外出先で急に資料を見たくなったり、出張時にどの資料が必要になるかがわからないので、そのように大量の本を持ち歩ける電子書籍は本当にありがたいです。紙は重い。 

本は資料みたいな感じでとらえているので、正直小説とか、文庫本なんかの“文字だけの本”って読んだことないんですよ。読書感想文でフランダースの犬を読んだぐらいで、それさえも苦痛でしたから。今の僕を形成しているのは漫画本のおかげですね。人の生き方とか、仕事の仕方とか、人間関係というのは、全部漫画から得ました。僕は漫画だけで育ったんです。 

漫画との本格的な出会いは、小学校6年の時かな。『こちら葛飾区亀有公園前派出所』(JUMP COMICS)の1巻がちょうど出たころです。その頃から嵌っています。今もジャンプとマガジンはずっと読み続けていて、娘がいるので少女漫画も読むし、テレビのアニメもほとんど見ています。あと、漫画家だと藤子不二雄さんが好きですね。『ドラえもん』(小学館)から入ったんですが、今ではほとんどの本を持っていますね。

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