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福江誠さん(東京すしアカデミー代表)「寿司にITを持ち込んだ異端児の野望」インタビュー

寿司修行のマイノリティに門戸を開く

福江氏:その決断と挑戦の中で、正直いろいろと業界内からの声もありましたが、気にせずに進んできました。それを気にしていたら、前には進めませんからね。今も気にしないですし、逆に今は業界の中での立ち位置をうまく確立できてきたと思っています。

確かに開校当初は、今までにない形態ということもあって、特に旧来の、「寿司職人」さんたちから、厳しいご意見も頂くこともありました。しかし、お寿司を愛してやまない私たちの熱意と、人材を供給する側としての実績を認めて頂き、今では歓迎してくれています。皆さんにご理解頂けるようになりましたし、日本の寿司や和食を取り巻く環境が変わったとも言えると思います。

和食をはじめ「寿司」の世界が世界中で認知され、「寿司職人」になりたいという人も増えてきました。今までのような、最低5年以上で、遅くとも20歳ぐらいからという世界から、働き方の多様化とともに、修行の仕方も変化しなければなりません。従来の修行コースでない人々を受け入れる多様性に対応しないといけない時代になっているのは確かなのです。そうした寿司修行のマイノリティに門戸を開き、繫いでいくのが私たちの役割だと思っています。

学校教育と同じで、各人の能力に応じた「飛び級」は職種によって、その時間軸、ヒエラルキーに差はありますが、寿司業界も変わりつつあります。ただ、変わらない部分もあって、ある一定の技術水準までは、AI(人工知能)のおかげもあり、昔より短縮された部分もありますが、やはりその先への探究心が必要になってきます。それは寿司職人の世界でも経営の世界でも同じで、何であれ「道の極め方」に終わりはありませんね。

――終わりのない道で、福江さんは今、どこに向かっていますか?

福江氏:単純に手広く事業を広げるのではなく、学校事業をやっていますから、50年先、100年先を見据えた、未来の人材を作っていかないといけないと思っています。経営者としては、その中で成長領域を見出していく。アジアを中心とした飲食の事業展開もそうですし、何より「人」に投資していきたい。今は和食を教えていますが、日本の食材を使うということは、農業、漁業と密接に関わってくることでもあります。その世界で皆が協力しあって新しい時代を築いていくお手伝いをしていきたいと思っています。

日本は島国なので、情報が入る方も出る方もそれなりにハードルがありますが、すでに世界中にこれだけ広がった「寿司」という土壌があり、「寿司を握ることができる」技術という腕一本で、世界へ「日本人らしさ」を発信することができます。

お寿司は、ただ食べて美味しい・美味しくないだけでなく、板前とお客さんのやり取り、コミュニケーションを楽しむカウンターの文化でもあります。今後はやはり、お寿司を通じて私たちの文化全般も伝えていきたいですね。

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