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レジェンド松下さん「1日で1億円を売り上げた伝説の実演販売士」インタビュー

自分が見つけた「咲く場所」を、とことん愛すること。

松下氏:「ここで一人前になれなかったら、俺も終わりだな」。ネットで実演販売の仕事を探すなかで、「のど元ひとつで一人前になれる」という惹句(じゃっく)に引き寄せられてコパ・コーポレーションに電話をかけた時、ぼくは背水の陣を敷く覚悟でしたね。

今とは違って、会社も社長と社員数名の小さな所帯ということもあってか、話はすぐにまとまりましたが、社員としての採用ではなく、あくまでフリーとして、ノウハウを教えてもらうような形でのスタートでした。

ぼくの最初の実演販売士としての仕事場は、渋谷の東急ハンズ。それまで1ヶ月間、師匠の和田守弘さんの元で、それこそ一言一句、完璧にコピーしようとしていました。この頃の心境は、とにかく「真っ白な気持ちで臨むこと」。朝から晩まで横に張り付いて師匠の“口上” を頭に叩き込むうちに、それが綿密に計算された極めて理論的にできたものだということに気がついたんです。

――松下さんの観察眼が光ります。

松下氏:「実演販売は、確固とした理論で成り立っている」。それで、この仕事は自分に向いているとますます思い込むようになりましたね。大学の頃から結婚を前提に付き合っていた妻は、聞き慣れない“実演販売士”という仕事に、「何それ」という感じで(笑)、世間の認知度も低いものでした。

コピーライターを目指していた自分としても、そうした「人目」を気にしなかったわけではありません。ただ、就職戦線でことごとく負けてしまった自分には、もうこの道しかないというのが正直な気持ちだったんだと思います。

一方で、テレビはアナログから地上デジタルに移行する時期を迎えていたこともあり、テレビショッピングのさらなる需要も感じていました。また、それに伴って今までにない形での実演販売士という仕事も、活躍の幅が広がるとも考えていました。

振り返ってみて、実演販売士としての自分はつくづく運がよかったと思います。よい師匠につくことができたのもそうですし、売れる商品、売れる場所を掴むことも比較的早い段階で気がつくこともできました。それでも、どんなに「好き」で始めた仕事にも、きつい時期はやってきます。まったく売れなかったり、鳴かず飛ばずだったりした時期も経験しました。

そんな時、自分がよく考えていたのは、数億円、つまり生きていくのに困らない大金を手にしても、この仕事をやり続けたいかどうか、ということでした。

――置かれた場所で咲くよりも、みずから咲く場所を探していく。

松下氏:そして自分で見つけた場所を、とことん愛することが大事なんじゃないでしょうか。自分で場所(仕事)を選ぶことができれば、不遇の時も耐えることができます。大事なのはその時、聞こえてきた声に正直に従う。自分をごまかしたり、変に我慢した先に「正しい努力」はなかなか見えてきません

一緒に働く仲間にも、正直な言葉で伝える。相手にして欲しいことは、ちゃんと言葉で伝える。言葉で言えないことは求めない。そうして妥協なく「好き」なことで、正直に自分を高めていく。そうすれば「正しい努力」は自ずと見えてくると思うんです。



「壁」は倒さなくてもいい、無理して登らなくてもいい
自分を大切にしながらでも、未来は描いていける

――自分の声に正直に、目標を達成してきました。

松下氏:無理はしない。その代わり、自分で決めたらとことんやる。今のような形で、実演販売を始めた頃、中には「お前たちのやっているのは実演販売じゃない」と言われたこともありました。また、この仕事に限ったことではないと思いますが、新しい試みには、当然、いろいろな反応が返ってきます。

そして、それらは大抵、十人十色。人それぞれの持論があります。正解も人それぞれ。その中から、自分に合うものは取り入れて、そうでないものは無理して聞く必要はないと思うんです。その代わり、自ら選んだのなら、言い訳せずに行動をする。そうして、なりたい自分を逆算して描き、近づいていく。

実は「レジェンド」という呼称も、最初は自ら名乗ったものが、そのうちテレビショッピングで取り上げたある商品が、ひと晩で1億円を売り上げた実績とともに、本当に周りからそう呼ばれるようになったという、まさに逆算の賜物なんです。 ぼくは自分が大好きです。「こう見られたい」という想像を、形にしていく。そのために必要なことをしていく。働くというと、真っ先に「我慢」という言葉が浮かびますが、自分を大切にしても未来はちゃんと描ける、ということをこの仕事を通じて証明したいとも思っています。

――自分を大切にしても、夢は掴める。

松下氏:こうして「実演販売士」という、自分に向いた仕事で生きることができ、家庭を持ち、子どもを育てることができることに感謝しています。ぼくがこの世界を志した時、「もうお前の後は一生誰も来ないよ」とも言われていました。業界の道は、自分の考えとは正反対にしぼんでいくものと考えられたんです。けれど、自分なりの方法論で、実演販売士の土壌を作っていった結果、確実に世界は広がっています。

「実演販売士」という仕事は、説明書などの文字には記されない「ストーリー」と「感動」を伝えることのできる魅力ある仕事だと、ぼくは信じています。自分の好きなセリフに「スゴくないですか?」というものがありますが、こうした人間の感想は、実演販売だからこそ伝えられるものです。 これからも、自分の声に正直に、次の挑戦も新しい仲間とともに楽しみながら、世の中の「スゴいもの」を「レジェンド松下」の感動とともに伝え続けていきたいと思っています。

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