「シェアが豊かさを生む」ーーみらい総合法律事務所の共同経営者である弁護士の谷原誠氏。企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題など、多岐にわたるテーマで活躍し、それら本業で培ったノウハウを、ビジネス書やTV出演などで、余すことなく伝えられています。「〜に詳しい」の枕詞を多数持ってなお止まらない谷原さんの原動力、またそれらを可能にするインプットとアウトプット術についても伺ってきました。
こんな話をしています……
・(司法試験の)勉強の時間と質をとことん追求した
・(本は)弁護士活動を通して身につけた知識やノウハウをシェアするために書く
・身につけたノウハウはシェアするべき
谷原誠(たにはら・まこと)氏プロフィール ※インタビュー当時
弁護士
1968年、愛知県生まれ。明治大学法学部卒業後、司法試験に合格。主に企業法務、事業再生、交通事故、不動産問題などを扱っている。みらい総合法律事務所共同経営者。『報道ステーション』(テレビ朝日系)など、テレビのニュース番組で解説としても活躍。主な著書に『人を動かす質問力』『思いどおりに他人を動かす交渉・説得の技術』『弁護士が教える気弱なあなたの交渉術』『するどい「質問力」』『同業の弁護士から「どうしてそんなに仕事ができるの」と言われる私の5つの仕事術』など。近著に『未来の自分を高める「シンプル仕事術36」』などがある。
就職できないなら……一発勝負で目指した弁護士
――谷原さんの活動全般について伺います。
谷原誠氏:弁護士の仕事としては、交通事故に遭われた被害者側の弁護をし、加害者へ損害賠償請求をするということを主力業務でやっています。会社法務や会社倒産の案件を扱うこともあります。
弁護士は、依頼を受けた人を救うのが仕事です。やはり困っている人を助けて、そのケースを解決するたびに充実感を得ることができる。そして、人から感謝されるということ自体にも充実感を覚えられます。ですから事件を解決し続けること自体が、私の行動の源なんですね。 もちろん世の中色々な人がいますから、楽しい仕事ばかりとはかぎらないのですが。
――弁護士になるまでの道のりをうかがいます。
谷原誠氏:子どもの頃は、非常に無口で人見知りするような子どもでした。家にはそんなにたくさん本がなかったので、家にある野口英世さんの伝記などを何度も大切に読んでいました。父親が陸上自衛隊に勤務していたので「自衛隊に入りなさい」とは言われましたけれど、「勉強しろ」とは一切言われませんでしたね。
私の世代はバブル期に大学に入って卒業するような感じでした。何かになりたいというよりも、成績によって自動的に大学が決まり、卒業する時にはどこの会社にも入れるような、そんな幸せな時代だったんです。ですから職業選択などをまったく考えずに大学まで進みました。
私は明治大学の法学部出身ですが、毎日、週6日練習があった体育会の器械体操部に入っていました。深練習が夜の8時過ぎまであって、そこから家に帰って夜の12時から朝の7時までコンビニの深夜バイトで働いて、帰って仮眠してまた部活へ行くというような大学生活を過ごしていましたね。もちろん授業にはあまり出られず、学校の成績は全然ダメ。いくらバブルでどこでも入れる時代といっても、自分のような成績の学生は就職は難しいものでした。
どうしたものかと思案していた時、たまたま大学の掲示板を見ていたら、司法試験の受験生向けの研究室が「司法試験の受験生を求む」と書いてあったんです。「成績が悪くて就職できないなら、一発勝負の実力でいくしかない」と、それで司法試験を受けたというわけです。
――なかなかスリリングな状態ですが、どのような勉強で司法試験に臨まれたのですか?
谷原誠氏:司法試験というのは、今はもう簡単になりましたけれど、当時は合格率が2%だった。東大生とか頭のいい学生がいっぱい受けて、それでも合格平均年齢が28歳でした。自分は東大生には頭の良さでは確実に負けると思った。そうすると、東大生が一生懸命やっているよりも成績が良くなるためには、もう勉強の時間と質しかない。だからそれをとことん追求して勉強しましたね。
暗記する項目を、自分でテープに吹き込んで、朝タイマーで起床するんですが、ボヤッと起きて、ご飯を食べる時もテープを聞きながら食べる。歩く時もテープを聞きながら歩く。本を読める時は必ず読みましたね。お風呂専用の本を置く、トイレ専用の本を置く。とにかく起きている時間はことごとく勉強にあてるというのが時間の使い方でした。ところが勉強というのは集中して、例えば1時間なり2時間やると、頭が飽和状態でウニみたいになってくる(笑)。
もうこれ以上頭に入らないという感じになってきますよね。そうならないためにはどうしたらいいのかというと、過度に疲労するともうそれ以上何もできなくなるんです。運動でもそうです。ということは、疲れる前に定期的に休まないといけない。1時間以内にどんどん休んでいく。
普通の人は、「1時間必ず勉強しよう」とか、「このページまで勉強しよう」とか、自分の目標を立ててそこまでやってしまう。でも体のコンディションがそれについていかないんですね。だから、疲れる前に自分の体と相談しながら休んでいくという方法だと、1日中でも勉強できる。それでなんとか2回目で合格を手にすることができました。
シェアする弁護士のIN/OUTPUT術
――様々なテーマ、切り口で発信されています。
谷原誠氏:締めきりが迫ってくると早朝や深夜の時間帯に書くのですが、基本執筆は土日です。PCは事務所にデスクトップ、家にノートブックがそれぞれ1台ありますが、土日に事務所にいれば事務所で書くし、土日に家にいれば家で書きます。場所は選ばないです。普段歩いている時にも本の構想を練ったりします。だから、座ったりするまとまった時間がある時が、執筆時間ですね。
PCが手元になかった場合、文章がまとまったたびにICレコーダーに吹き込んで、それを後で打ち込むこともあります。執筆の原稿などはEvernoteでどこでも同期できるようにしています。
私は、本を書くこと自体に二つの路線があります。ひとつは得意とする交通事故関係の専門書です。これはプロの弁護士や裁判所、保険会社など、交通事故にかかわる方に向けたものです。もうひとつの路線は、一般の方がお読みになる質問力や交渉力についての、いわゆるビジネス書です。両方とも私が弁護士活動を通して身につけた知識やノウハウをシェアするために書いています。私は「身につけたノウハウはシェアするべき」という考え方なんです。
専門書の方は同業の方たちと知識をシェアする。ビジネス書の方では、弁護士という仕事を通して身につけた一般の方々に役立つことの知識やノウハウをシェアする。そういう考え方で本やメールマガジンを書いています。
弁護士だからこそ伝えられることを書きたい。今まで書いたことがないテーマで言うと、戦略的に物事を進めていく方法や、あるいは、紛争を解決するためのテクニックやスキル、といったものだと思います。弁護士としてはもちろん、豊かな世の中のために、自分が業務の中で得たことはどんどんシェアしていきたいですね。