竹串に頼りなくっついた羊肉じゃ美味しくない。茹でたような柔らか肉じゃ物足りない。
やはりその場で焼く肉厚でジューシーなのがいい。
中国朝鮮族自治州の延辺。その延辺料理の羊肉串は、羊を最も美味しく食べられる料理のひとつ。
新大久保にある『千里香』(場所を強調しておきたい。)の羊串は、炭火で焼く。各自焼く。焦げないように時々、串を回転させながら全体にまんべんなく焼く。
ずっと集中してると炭火の遠赤外線で、こちらの目玉まで焼けそうになるから、焼くときは注意が必要。
腹の空き具合とほかの料理の頼み具合にもよるけれど、最初はひとりだいたい8本から10本ぐらいがちょうどいい。これに、甘ダレのかかった「干豆腐(がんどうふ)のムチム」を頼むのが、私の定番スタイルです。
甘酸っぱい干豆腐のムチム
旨い羊肉串と、そうでない羊肉串は何が違うのか。
味の決め手は事前の下味と香辛料。それからクミン。これは言わずと知れた、羊肉の最高の友。
羊肉の脂身が溶け、炭火に落ちると真っ白な煙がボワっと上がる。クミンの種がはじけて音がバチバチしてきたら食べごろ。
「羊は熱いうちに食え」。
熱せられた鉄串で口の中をやけどしないように、丁寧に上下の前歯でスーと肉を剥がして、さっとほおばる。
柔らかい脂身と、タレの染み込んだ赤身が、脳天に直撃。余韻が残っているうちに、チンタオビールで流し込む。もしくは白酒。コーラもいける。現地風に、生のニンニクをガリガリかじりながらやると、なおよし。
以下、繰り返し。
客の大半は中国人で、店員さんも中国朝鮮族の人。互いに〜同志と呼び合う和気あいあいとした店の雰囲気が一層、羊を旨くさせている。
昔、釜山駅前の中華街に、こことまったく同じスタイルで食べさせてくれるお店があった。ここに来るたび、その時の感激を思い出す。羊を最も美味しく食べられる食べ方、延辺料理の「羊肉串」。
「干豆腐のムチム」を串休めに、ひたすら羊を食らって千里香の夜はふけてゆく。
羊肉万歳。